超能力者は暇ではない
 

冬草学園高校の校門前にやってきた二人は、周りに人がいないことを確認して校門を抜けると、そのまま木の陰に隠れた。
リオはちゃっかり冬草学園の制服を持ってきている。

もちろん生徒になりきるためなのだが、やはりここでもリオはセーラー服を身に着けて女子を演じている。

「なあリオ、俺は変装する必要あるのか?」

京は渡されたワイシャツとズボンをつまみながらリオを睨んだ。
京は普通のワイシャツにズボンという、端から見れば制服に見えなくもないファッションである。確かに、わざわざ変装しなくても大抵の生徒は騙せるのではないか。

「そんなのどうでもいいんですよ!京様がここの学校の学生服を着てくれれば僕たちカップルに見えるかもしれないじゃないですか!」

リオは鼻息を荒くしながら京に近寄ると、京の服を無理矢理脱がせるという暴挙に出た。

「だあああああああ!!やめろ!!おまえとカップルなんて死んでも嫌だ!!」

京はリオの胸倉を掴んで振り回すと、そのまま勢いをつけて彼を投げ飛ばした。
と同時に、警官服を着た若い男が目の前に現れた。

「何やってるんですか、あなたたち!」

その若い警官は、上半身裸の京と校舎の壁にめり込むリオを交互に見て不審そうな顔をした。

「……学校の関係者……ですか?」

壁から這い出すことに成功したリオは、はだけたセーラー服を直しながら戻ってきた。

「僕…あ、いや、私はこの学校の生徒ですよ。ね?京先生」

「え?あ、ああ…うん」

リオの発言に警官は少し安心したような表情をすると、京のほうを向いて小さく頭を下げ、ため息混じりに話し始めた。

「ほんと困ったもんですね……まだこの間の小高さんの件も解決してないというのに、まさかまた別の教師が消えてしまうなんて……課題が山積みですよ……あ、ちなみに私は外山といいます」

外山という名らしい警官は、頭をポリポリ掻きながら弱々しく笑った。

「え?また誰か消えたんですか?」

そう尋ねたのは京だった。

「ええ、今朝の職員会議の時に関根という男性教諭が……ってアレ?先生ご存知ないんですか?」

内心ヤベッと思った京は、慌てて背筋を伸ばす。

「すみません、俺本当は教師じゃないんで」

「京様!いくらなんでも開き直り早すぎ!!」

ツッコミを入れると同時に京の手を引いて逃げ出すリオと、わけがわからずポカーンとする外山。

数秒後、外山の怒鳴り散らす声とこちらへ走ってくる音が聞こえたが、二人は校舎裏の駐輪場に逃げ込み、なんとか外山から逃れることに成功した。

「……とりあえず落ち着いてから校舎に侵入しましょうか」

「……そうだな……」

二人は息を切らしながら、ゆっくりと校舎の窓を覗いた。
校舎内では、警察らしき人が数人で固まって捜査をしているようだった。

「困りましたね……思った以上に警察多いですよ。どうします?」

不安そうに京を見るリオ。
確かにこのまま行けば、警察とバッタリ遭遇してしまう。
外山が二人を見つけてしまう可能性だってあるのだ。

京は少し考えてから、意を決したように立ち上がった。

「……仕方ない。警察がいない廊下あたりの壁に穴でも作って入るしかないか」

京は指の関節を鳴らすと、右手を壁に当てた。
すると、ほんの一瞬で壁に大きな穴が開き、誰もいない薄暗い校舎の廊下を露にした。

「京様……!やっとやる気になってくれたんですね!!」

リオは京の腕をがっしりと掴むと、嬉しそうにピョンピョン跳ねた。

「おい離れろバカ!ここだって、いつ警察に見つかってもおかしくないんだぞ!」

リオの腕を掴み、急ぎ足で穴に入る京。

京は穴に右手を手を翳すと、その手をスッと右に動かした。
その動きだけで、さっきまで大きく空いていた穴が塞がる。

「よし、これで大丈夫だな」

「さっすが京様!僕もこんな風に簡単に超能力を使えたらいいのになあ…」

「うるさい、行くぞ」

二人はなるべく足音を立てないように廊下を走り、突き当たりにある階段を登って二階へ移動した。

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