超能力者は暇ではない
「とりあえず、1-Bに行って詳しく話を聞きましょうか」
リオはセーラー服の胸ポケットから小さな手帳とペンを取り出すと、早速例のクラスへと向かった。
廊下ですれ違う生徒の視線が妙に痛い。
いざクラスに着くと、ちょうど昼休みだったためか何人かの生徒は不在だった。
「あの〜、すみませ〜ん」
教室に向かってリオが声をかけると、周りの生徒は少し驚いたような顔でリオを見た。
無理もない。まるでゲームやアニメから飛び出してきたような金髪碧眼の美少女が目の前に現れたら、誰だって驚くに決まっている。
まあ、"女"というのは仮の姿で、実際は普通の少年なのだが。
「おいリオ、みんな驚いてるじゃねえか。どうすんだよ」
後から来た京がリオの耳元で囁く。
「や、やだ!京様ったらイキナリ耳元で囁くなんて反則ですよッ!」
照れながら小声で返してくるリオを一発殴り、今度は京が尋ねる。
「すまないが、少し聞きたいことがあるんだ。この間消えた小高って教師の……」
「またその話ィ〜?アタシら何度も何度も同じ質問されてウンザリなんだけどォ〜」
京の話を遮って、小柄な女子生徒が立ち上がった。
小さい割に小太りなため、子豚に似ている。
「アンタたちさあ、そんなに小高について調べてどうしたいワケぇ?別にアイツはウチのクラスの担任じゃないし、アタシらはただアイツが消えた瞬間を見ただけだしィ〜」
某アイドルグループのメンバーの顔写真が入った下敷きをパタパタさせながら言う子豚女子に、もう一人の女子が話しかける。
「齊藤さん!わざわざ来てくれた人にそんな言い方ないでしょう!」
そう言ってから京とリオの前にやってきたのは、先ほどの齊藤という子豚女子よりも明らかに大柄な女子だった。
「すみません、わざわざ来てくれたのに…あ、私、学級委員の野口です」
野口という名らしい女子生徒は、驚くほど深々と頭を下げるとニコリと微笑んだ。
「で、ご用件は…」
野口に促され、今度はリオが言う。
「えっと、あの、このクラスで授業をしている最中に小高先生が消えたという事なので、その時の詳しい状況を教えてもらおうと……」
リオの話にふんふんと頷きながら、野口は申し訳なさそうに顔を上げた。
「ごめんなさい。私も当時のことは気が動転してて、あまり覚えてなくて……詳しくと言っても、新聞に書かれている事と同じような事しか話せないんです」
「じゃあ、他にその時のことをハッキリ覚えていそうなクラスメートはいるか?」
京の問いに、野口はフルフルと首を振った。
「……多分いないと思います。恥ずかしい話ですが、うちのクラスの生徒は小高先生の授業を真面目に受けていなかったので……」
野口の話によると、小高は最初に述べたように好き嫌いの激しい教師であるため、大半のクラスから嫌われていたのだという。
そしてそれは、この1年B組も例外ではなかった。
「私もついつい隣の席の子と喋っちゃったりしてて……あ、ノートはちゃんと書いてたんですけどね。へへっ」
「なるほど……じゃあ、小高が消えた瞬間ってのはみんなチョークの落ちる音で気づいたりしたわけで、その直前に小高が何をしていたか見てた奴はいないんだな?」
「はい、多分……役に立てなくてスミマセン……」
再び頭を深々と下げる。