超能力者は暇ではない
「染谷警部、なぜ水野さんをここへ……?」
外山が不思議そうに尋ねると、染谷は急に真剣な顔付きになって外山の目を見た。
「実は、水野さんにもこの電話を聞いてもらおうと思ってね……」
染谷はそう言うと、再び録音を再生するよう相沢に促した。
相沢は少しオドオドしながら、再び再生ボタンを押した。
沈黙の中、あの奇妙な女の声だけが部屋に響き渡る。
再生が終わると水野は、顔を引きつらせたまま染谷のほうを見た。
「……間違いありません……私に電話をかけてきたのと同じ女です……」
水野は震えていた。
「……やはり、か……」
染谷は顎に手を当てて下を向いた。
「電話の台詞も全く同じか?」
京が尋ねると、水野は小さく頷いてから思い出したように顔を上げた。
「あ、でも……少しだけ違うわ。私の時は……相手の女性が名前を言ってたから……」
水野の言葉に、外山が慌てて手帳を取り出した。
「な、名前、なんて言っていたか教えていただけますか!?他にも何か言っていたら、細かく教えてほしいんです!!」
水野はふるふると首を横に振った。
「言ったら……私が消される……」
水野の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「大丈夫ですよ、僕らがいますから!犯人を捕まえる為にも、あなたの持つ情報が必要なんです!信じてくださいよ!!」
リオが力強く言うと、水野は少し驚いたような顔をした。
しかしすぐにまた下を向き、黙り込んでしまった。
「……水野さん……」
相沢が声をかけようとした時、水野がゆっくり口を開いた。
「……私の……聞き違いでないなら……」
弱々しく力のない声だが、水野は何かを話そうとしている。
「彼女は……こう言っていた……」
水野がゆっくりと顔を上げる。
「……『私はザイゼン』と……」
その場の全員で顔を見合わせる。
誰一人として心当たりがなかった。
「小高か関根の知り合いで、ザイゼンって奴はいないのか?」
京の問いに、外山が首を傾げる。
「調べた限りでは、そんな名前の人はいなかったような……」
水野はぶわっと涙を溢すと、急に声を荒らげて泣き出した。
「ああああ!とうとう言ってしまった……!次は私が消されるんだわ!うわあああああ!」
「ちょ、水野さん落ち着いて!大丈夫だから!」
久保が水野を宥めようとしたが、水野はますますヒステリックになるだけで久保の言葉には耳を貸そうともしない。
「……あとはうちに任せてください。今日はもう遅いですから……あ、相沢、彼等を送ってってあげて」
外山が小声で言う。
「そうだな……帰るか、リオ」
「はい、京様」
「んじゃ、オレもー」
京、リオ、久保の三人は相沢に連れられて外に出ると、水野の泣き声がこだまする部屋を後にした。