超能力者は暇ではない


「この本はオレが小さい頃に読んでた本なんだけど、本編はあまり関係ないんだ。オレが目を付けたのは、翻訳者のあとがきのほう」

久保はそう言うと、並べられた本のうち一冊を手に取った。

「この本を翻訳したのは及川って人なんだけど、面白いんだよ。この本は全部及川さんが翻訳してるんだけど、全部に『人が消えたエピソード』を載せてるんだ」

「人が消えたエピソード?」

京も本を一冊手に取りページをめくってみる。
翻訳者のあとがきのページには、確かに「人が消えたエピソード」が書かれていた。

『私がまだ幼かった頃、目の前で友人が煙のように消えてしまったことがある。(中略)後にそれは私の地元に伝わる「人消」によるものだったのではと考えるようになった』

及川のあとがきには、多かれ少なかれ必ず友人が消えたエピソードが書かれている。

詳しいことは書かれていないが、及川の地元にはどうやら「人消(ひとけし)」というものが存在したらしい。

それが超能力者か妖かは不明だが、明らかに普通の人間ではないことは確かだ。

「なるほど……それで警察署にいた時、どこかで聞いたとか言ってたんですね」

リオが感心したように久保を見る。
久保はエヘンと胸を張ると、「褒めてくれてもいいんだよ?」と言った。

「この及川って人に話を聞くのもアリだな。でも、この本じゃ情報が古すぎる。今もまだこの『秋花女子大学』って所で教授やってるっつーなら話は別だが……」

京は及川のプロフィールが書かれた欄を見ながら呟いた。

「あ、じゃあ僕が調べてきます」

リオは本を一冊手に取ると、リビングから出て行った。
パソコンの操作は主にリオが行っているのだ。

「ま、これでビンゴだったとしても犯人に辿り着ける保証はないけどね」

久保がペットボトルの緑茶を飲み干して言った。

確かに及川に話を聞けても、それが今回の事件の「人消師」と関係があるかはわからない。

京は自分がいかに無力かを思い知らされた。

「なあ久保、今回は三人別々に行動しないか?多分、俺達にはあまり時間が残されてない」

京の提案に、久保が少し驚いたような顔をする。

「えっ、別にいいけど……リオくんは君と一緒にいたいんじゃないの?」

「そんなことねーだろ。あいつにとって家族みたいなのは俺しかいないから俺にベッタリ懐いてるだけだ」

そう言いながら、食べかけだった朝食に手を伸ばす京。
久保は「ふーん……」と頷くと、リビングを見回した。

写真などは飾っておらず、どこか寂しい雰囲気だ。

「……君達って、血の繋がった家族じゃないんだよね?なんで一緒に暮らしてるの?」

「さあな、いずれ話す時が来たら話すさ」

京は空になった皿を重ねてキッチンへ持っていくと、電話の横に置かれたメモに目をやった。
昨日、虎太郎にもらったメモのひとつだ。

(小高が通ってたと思われるスナック、か……)

京が考えている間に、リオが戻ってきた。

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