超能力者は暇ではない
◆及川と人消


警察の情報を頼りに及川の家へやって来た久保は、ネクタイを直しながら玄関のチャイムを鳴らした。

薄緑色のポロシャツを着た男性がドアを開ける。

「はい……あ、どちらさまですか?」

「先程お電話させていただいた、流星探偵事務所の久保と申します」

「ああ、さっきの。どうぞどうぞ上がってください」

及川は久保を招き入れると、熱い緑茶を出してくれた。

「えっと、人消について聞きたい……と言っていたね?」

及川がお茶を啜りながら尋ねる。

「はい!今ニュースで話題になってる教師が消えた事件……あれに、どうやら『人消師』というものが絡んでるみたいなんです」

久保の言葉に、及川がうーんと唸る。

「いやあ……うちの地元でそういうもんがいたって話は聞いたことあるけど……ちょっと俺の知る『人消』と違うんだよなあ……」

及川はそう言うと、古い冊子のようなものをテーブルに置いた。
表紙はボロボロで色褪せており、何か字が書いてあるのだが掠れていて読めない。

「これは俺の地元の伝承やら何やらが書かれた本だ。ここには人消は『悪い事をした子供を消す』存在として書かれてるんだよ」

及川の話によると人消は、親の言う事を聞かなかったり、いじめや仲間外れをするような子供を消す妖怪のようなものだったらしい。

つまり、もし及川の言う『人消』が今の事件を起こしている『人消師』なら、まず子供がいなくなるはずだ、と言うのだ。

「確かにそうですねえ……今の所、被害者は皆大人ですしね……」

久保がメモを取りながら頭を押さえて考えていると、及川が何かを思い出したように顔を上げた。

「そういえば、俺の教え子で卒論のテーマに人消を選んだ生徒がいたなあ。今から連絡を取ってみようか?俺は本当にかじった程度しか知識がないけど、そいつは多分俺なんかよりかなり詳しいはずだ」

及川の思わぬ提案に久保の顔がパッと明るくなる。

「本当ですか!?ぜひ話を聞きたいです!」

「よし、じゃあ今から電話してみようか」

及川は立ち上がると、電話の側に置かれた引き出しをあさって古い紙を取り出した。
どうやらその紙に例の生徒の連絡先が書いてあるらしい。

及川は紙を見ながら電話をかけると、しばらく世間話をしてから電話を切った。

「今から行ってもいいみたいですよ。俺は行けないけど地図を描くから行ってみたらどうかな?」

「あ、ありがとうございます!!」

久保は及川と握手すると、早速地図を描いてもらった。

ここから電車で一時間程の場所らしい。

「ありがとうございます!本っっ当に助かりました!」

久保が頭を下げると、及川も「いやいや」と笑いながら頭を下げた。

「何か進展があったらぜひ教えてください。自分もかなり興味があるので」

及川は最後にそう言うと、参考になればと先程の古い冊子のコピーまでくれた。

久保は何度も礼を言いながら及川の家を後にした。


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