超能力者は暇ではない
「とにかく、一度小高の身内に話を聞くのがいちばんかもしれませんね。あとは関根の件か……」
リオは丁寧に崩したミルフィーユを口に運びながら言った。いろいろと考え事をしているようだ。
「じゃあ、この後にでも息子さんの所行ってみる?関根のは……まあ今度にしよう」
「えらく適当だなオイ」
レアチーズケーキを食べながらツッコミを入れる京に、久保がウインクをする。
「何事もゆっくり進めるのが肝心だよ!今日はとりあえず小高の息子さんに話聞こうよ。この間警察の人に息子さんの携帯の番号教えてもらったし、住所もわかるよ!」
「警察ってそんなに簡単に個人情報渡してくれるんだな……」
京が驚いたように言うと、久保は「オレは警察の方々に信頼されてるからね〜」と笑ってみせた。
よくわからないが、今は久保の言う通りにするのがいちばんのようだ。
「んじゃ、早速息子さんに話聞きに行きますか!久保さん、息子さんに電話して取材申し込めますか?」
リオが尋ねると、久保は力強く頷いた。
「オッケー!じゃ、オレ外に出てるから!あとオレ金忘れたからお会計よろしくね!」
久保は伝票を二人の前にピシッと置くと、胡散臭いウインクを飛ばして店の外へ出ていった。
ドアに付いたベルがカランカランと鳴る音が、二人を嘲笑っているようだった。
「……あいつ、いつかぜってー中華料理奢らせるぞ」
「……そうですね、京様」
「ついでにフレンチもな」
京は伝票を強く握りしめながら、大股でレジに向かった。
久保が外で電話しているのが見えた。
会計を済ませて外に出ると、ちょうど電話が終わったらしい久保がこちらを見て笑った。
「お、来た来た!お疲れー!」
「おまえなあ……金持ってねーなら喫茶店なんて誘うなっつの」
京がレシートを渡すと、久保は「えへへ、ごめんごめん」とヘラヘラ笑ってみせた。
「で、小高の息子さんと連絡取れたんですか?」
リオが尋ねると、久保が大きく頷いた。
「うん!今日は暇だから今から行ってもいいってさ!なんかちょっと乗り気じゃなかったみたいだけど」
「父親が消えたのにノリノリで取材受ける奴がいるかよ」
京のツッコミを華麗にスルーし、久保が「こっちだよー」と道案内をする。
コンビニの前にバス停が見えた。
「まさかバスで行くんですか?」
リオが訝しげな顔を久保に向ける。
「ん?そうだよ?だって歩きなんて面倒じゃないか」
当たり前のことのようにサラリと言う久保に京が掴みかかる。
「おまえ金持ってないって言ってたよな?一体誰が運賃を払うんだ?」
「もちろん君達が」
言い終わる前に、京とリオが同時に久保を殴る。
京は小さくため息をつくと、鼻血を流して倒れる久保を引きずって歩き出した。