天国と地獄の境界線がなくなる前に僕はもっとやるべきことがあったのかもしれない
 日本人の多くが一番最初に見た鬼。それは身長は180センチから2mぐらいの大きさで、巨人広島戦のセンターとレフトの間。広島Zoom-Zoomスタジアムの緑の芝生からにょきにょきと現れたやつだ。ニュース映像で何回も放送されたやつ。

 最初、誰もがCGかなにかかと目を疑ったが、観客席や、そこいらじゅうに、にょきにょきと現れては大勢の人間達を襲った。

 鬼というのは人が集まるところに現れるとされている。おそらく人をいじめるのに効率がいいからなんだろう。鬼の価値観まではわからないが、おとなしく一人でいて襲われたという話は未だに聞かない。だから今もこうしてこのような文章が作れるわけだ。

 そのニュース映像でわかったことは鬼に対しては基本的に物理攻撃は効くという事だ。当時の広島の助っ人外人リチャード・ランスという三振の極端に多い選手が鬼に対してバットで殴ればダメージを与えることが出来たし、巨人の誰だったか忘れたが監督がボールの形をしたブルペンカーで鬼を轢けば大ケガを負わせることも出来た。

 映像の後半では自衛隊と警察が観客を誘導し、批難させつつ、何台ものヘリは球場の上を飛び回り鬼という鬼を根絶やしにしようとミサイルの雨を降らせた。

 ああ、これは自衛隊の勝ちだと誰もが思ったのだろう。

 僕はというと実況系の動画サイトで、画面を自分の発言で埋め尽くす遊びに必死になっていた。

 安全な場所で不謹慎にも圧倒的な近代兵器の前に、次々と倒れていく鬼を見てなんだか一方的で、かわいそうだなという感情が少し芽生え、なにげなく打った『鬼さんかわいそすショボーン』という書き込みに、多くの偏った人達が同調し、その感情は道徳的とは言えない内容で画面に埋め尽くされ、白い文字群の感情は簡単に程度の低い方へと流され、過激なものへとエスカレートしていった。

 面白い。

 世界なんか今日終わってしまえばいい。


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