短編集

「大丈夫だ。被害者じゃない」



 彼は俺の心を読んだかの様に求めていた答えを返してくれた。よく俺の考えている事が分かったものだな。パートナーと呼ばれるだけの事はあるのかもしれない。そんなどうでも良い事に驚いた俺は、一先ずの安心を得て運転を続けた。

 しかし、森下さんはそのままの調子でとんでもない言葉を続けた。



「だが被害者候補は検討がついたから、俺たちで保護する」



 百日周期の殺人が既に四回も行われているのだから、単純計算で一年以上経っている事は明白である。だが先も言った通り犯人の手掛かりは殆どなく、被害者の共通点も女性と言う事以外は皆無。

 そんな中で次の被害者の検討がついたと言うのか。まさかまたいつもの戯言じゃないだろうな。彼ならありえるから怖いのだ。



「失礼な奴だな。前田が一課から流れた情報をくれたんだよ」


「そうでしたか。あれ、すいません。声、出てましたか?」


「出てねぇよ。だが、そう思っただろ」



 確かに思った、が。



「次の被害者は、御崎静香だ」



 俺は驚いて右折すべき所を逃してしまった。直進し続ける車の後部座席には、言い切って満足そうな顔をする森下さんと、急に被害者に仕立て上げられた御崎静香がいる。

 だが当の彼女は驚いた顔一つしていなかった。俺は、それが不思議でならない。



「アンタが実家に帰りたい理由は犯人を見たからだろ?」



 森下さんは御崎静香に問いかける。彼女は静かに頷いたらしい。俺には見えなかったが、森下さんの顔がそれを物語っていた。

 万事上手く行っている時の顔である。この場合の「上手く」は森下さんの思い通りと言う意味であるから、世間的には上手くないのだが。



「事情は知らねぇが、アンタはネズミを見たんだな」



 俺の頭の中には最早、疑問符しか浮かんでいなかった。後部座席の二人は乗り込んだ時とは違い、説明もなしに会話を進めている。彼の質問に時折頷く姿を見ていると、どうやら御崎静香は森下さんの言葉をしっかり理解しているらしい。取り残されているのは俺だけだ。

 何だかそれが悔しくて、俺は車を脇道に止めた。



「珍しく、分かってねぇな。木崎」


「分かるはずがないでしょう。なぜ彼女が被害者なんですか」


「彼女がネズミを見たからだ」



 あぁ、もう厄介だ。



「厄介でもお前の上司だ。我慢しろ」


「声」


「出てねぇよ、いい加減気付け」



 何に気付けと言うのだろうか。上司ならそれを部下にさとして欲しいものだ。と、思ってはみたものの、また読心術か超能力かを使われそうだったのでその考えはすぐに捨てた。

 勿論、遅かったが。



「サトリがさとす、と言うのも可笑しな話だが」


「何ですって?」


「サトリだ。俺は妖怪サトリの生まれ変わりなんだよ」



 冗談、だと言うオチを期待したのだけれど。本当らしい。随分昔になるが森下さんから妖怪の話を聞いた時、サトリと言う名の妖怪も出てきた記憶がある。心を正確に読む事が出来る妖怪だ。

 疑う余地はない。

 俺は今まで何度か心を読まれているのだから。
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