短編集
はい無視。
お前俺が傷つかないとでも思ってんの? いや別にお前らに無視されても痛くもかゆくもないけど、様はあれだよ、人の気持ちも考えろってことだよ。そしたらプリン戦争でも何でも決着がつくってもんだ。
気付かないのかね、この馬鹿共は。
「馬鹿馬鹿言うなよ!」
「はんっ。お前の方が多いから、お前馬鹿って言ったのこれで四回目だからな」
「いや今のでお前五回目だし」
「揚げ足とかかっこ悪いわ、もう」
「開き直りの方がかっこ悪いだろ」
「二人ともかっこ悪い事に気付けよ」
いっそプリンカップを持つ互いの手を取り合って仲良く手を繋ぐのはどうだろうか。白熱した言い合いを見ているとプリンカップごと手が溶け合ってしまいそうだし。
何ならそのまま兄は青、弟は赤と色違いの服をきて双子マジシャンにでもなってしまえ。
それで稼いだ金でプリンでも何でも数が分からなくなるくらい買ってくればいいだろうが――とは思うけれどこの不仲兄弟を見ているとそんな事は天地がひっくり返っても無理だろうなと、思う。多分。
「離せよ! 俺のプリンだ!」
しかし天地がひっくり返る微塵の可能性にかけたとしたら。きっと繋いで溶けた両の手から互いの目線の届く範囲で道が開けるんだろうな。交わる様で交わらない別々の道をいつかは歩んで行くのだろう。
双子だからこそ互いの思いは誰より分かるはずだから――とかちょっと良い事を考えてみたけれど、やっぱり天地はひっくり返らないしこの馬鹿共には微塵の可能性もありはしないのだ。
むしろ馬鹿に可能性を試すなんて時間の無駄。
あぁ、無駄さ。
「お前はこの前食っただろ!」
俺は静かに机の上に置いてあった兄の携帯をお借りして、短縮ダイヤル一番を押した。電子音の後、ぷつっと音が切れて楽しそうな女の人の声が聞こえてくる。
「あ、おばさん。デート中すいませんけど帰りにプリン、大量に買ってきてもらえますか。はい、数が分からなくなるくらい大量だと本当にありがたいんですけど。何せ話を聞かない馬鹿二人が喧嘩してまして」
だけど誰かが言っていた。
無駄こそ人生の至福なのだと!
――どうせそれも戯言だろうけど。
(終)