落都
落ちた都

 そこは飢饉に直面していた。

 日照りのために作物は育たず、水は枯渇している。

 ひろがった疫病に死体処理は追いつかない。道のそこここに肉塊が転がった。

 その目玉があったはずの穴から、うじが這い出し、他と出会い、新たな卵が増えていく。


 成虫の1つが羽音をうならせ家の窓に飛びついた。中には、女がいた。
 床に寝ている彼女もやはり流行り病の色濃い顔をしている。

「もう…今日こそは、だめだ」

 すぐ横には男もいた。

「大丈夫だ、必ず治る」
「今日こそ、あたしを、ころしてくれよ」
「できるわけがないだろう」

 彼は妻の手をかたく握った。
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