落都
「たのむ、ころしてくれ」
「できないと言っているだろう」
「こんなあたしをこれ以上みせたくない、」
「そんなことを言わないでくれ。必ず治してやるから…!」
「あいしてい、いるなら、たのむ、殺してくれ」
女は震える体で頼む、と、何度も男に迫った。
彼はそのたび泣き顔を横に振っていたが、妻が咳込んだのを見てその動作をやめた。
「殺してくれよ…なぁ、」
藁の上の悲痛な声が消えかかっている。
耐え切れなかった男の手が、ついに刃物に触れたとき、女は安らかな表情であった。
日が沈むと、虫は窓から室内に入り、冷えた女の足首へ食らいつく。
足首を満喫したそれが、顔をあげた。
食べ頃の男の、むきだしの喉元が、そこにあった。