In the warm rain【Brack☆Jack3】
「あ、すいませんお客さん、店は今日休みですよ。コックがデートで…」


 言いかけて、ミサトは息を呑む。

 今入店にってきた男が、ナイフを片手にこっちに飛び掛かってきたのだ。

 ミサトは素早く動き、たった今出来上がったばかりのかに玉の皿を、その男目がけて手で弾く。


「……がぁっ!?」


 顔面に、もろにくらった男は、熱さに顔を歪めた。

 その一瞬を見逃さずに、ミサトは男に回し蹴りを一発お見舞いしてやる。

 倒れこんだ男に馬乗りになり、その胸ぐらを掴んだ。


「…強盗なら、あいにくウチは間に合ってるよ」


 だが次の瞬間、力一杯男に蹴り飛ばされ、ミサトがバランスを崩した拍子に逃げられてしまう。


「ったた…何なのよ」


 腰をさすりながら起き上がり、ミサトは軽く舌打ちをする。

 治安が悪いこのダウンタウンの中では、こういうことも日常茶飯事ではあるのだが、それにしても。


「たく…身体までなまっちゃったかな」


 あんなチンピラごときに軽く逃げられてしまうとは。

 ミサトは床に散らばったカニ玉を見てため息をつき、擦り剥いた手の甲をぺろりと舐めた。
< 23 / 221 >

この作品をシェア

pagetop