涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「今日の星良は最高だった…」


まだ息を弾ませている成宮さんの汗で濡れた胸に包まれ、満たされていく心…


「ねぇ、お願いがあるの」

「何?」

「明日からお休みでしょ?
2人で、どっか旅行でも行かない?」


安奈さんにああ言った手前、どこにも出掛けないのもしゃくだし、一応、誘ってみたけど…


「旅行かぁ…」


あまり乗り気じゃない声


「嫌なら…いいけど…」

「いや、嫌じゃないんだけど…
前に話したろ?俺が名古屋の出身だって

東京に出てから一度も実家に帰ってなかったんで、お袋が正月くらいは帰って来いってうるさくてな」

「そうなんだ…」


ガッカリして顔を伏せると、成宮さんが急に声を張り上げた。


「そうだ!!星良も一緒に来いよ!!」

「えっ?私も?」

「あぁ、それがいい!!
俺も星良と離れたくねぇし」

「で、でも…」


成宮さんたら、勝手に決めちゃってるけど、まだ付き合って間もないのに彼の実家にお泊まりなんて…気が引ける。


でも結局、彼に押し切られ、明日、彼の実家に行く事になってしまった。
なんだか気が重いなぁ…


そして、次の日のお昼過ぎ
成宮さんの実家に向かう為、マンションの部屋を出ると、無意識に隣の仁の部屋に眼が行ってしまった。


あの2人は何してんだろう…
寝正月とか言ってたから、まだベットの中なのかな…


もしかしたら…


仁と安奈さんの情事を想像してしまい
慌てて頭を振る。


私ったら、何考えてるのよ。
同棲してるんだもの…当然の行為じゃない。


私だって、昨夜は成宮さんと激しく求めあった。


そう…
私と仁はもう、お互い違う人を愛してるんだから…


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