涙と、残り香を抱きしめて…【完】

絶望と希望《島津星良side》


《島津 星良side》

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やっと仕事が終わった…


最近は、1日が凄く長く感じる。
デザイン企画部に居た頃には感じなかった倦怠感。
体が重く、精神的にもキツい。


書き終えた報告書を部長のデスクに置き会社を出ると、星の見えない夜空を仰ぎ見る。その時、フッと眼に飛び込んできたのは、デザイン企画部の窓の明かり


皆、元気にしてるかな…
なんだか、あそこに居たのが遥か遠い昔の様な気がする。


最近は仕事終わりに飲みに行く事もなくなったな…なんて思うと、無性に寂しさを感じたりして、切なくなる。


「はぁーっ…」


小さくため息を付くと足早に歩き出した。


暖房のよく効いた地下鉄を降り、スーパーに立ち寄って買い物を済ませると、マンションに向かう。


成宮さんが帰る前に夕食の支度を済ませたいと急いでエレベーターを降りたところで、私は、ある異変に気付いたんだ。


まだ帰って来てないはずの成宮さんの部屋の扉が少し開いてる。


「何?まさか…泥棒?」


暫くの間その場を動く事が出来ず、成宮さんの部屋を伺っていたけど、物音一つしない。


「…成宮…さん?」


恐る恐る扉に近づき、部屋の中を覗いてみたが、人の気配は無い。


カツン…


玄関に足を踏み入れた私のつま先に何か堅いモノに当たり、不思議に思い視線を落とすと、薄明かりに浮かびあがってきたのは、スマホ?


「これは、成宮さんのだ…。帰って来てるの?」


慌ててソレを拾い上げ、私は部屋の奥に向かって彼の名前を何度も呼んだ。


でも返事はなく、妙な胸騒ぎがした私はヒールを脱ぎ捨てリビングへと急ぐ。
部屋中の電気を点け成宮さんを探したが、彼の姿はどこにも無かった。


「一体、何があったの?」


そうだ…まだ会社に居るのかも…


そう思った私は明日香さんの携帯に電話を掛け、成宮さんが会社に居るか訊ねてみた。


『成宮部長?彼なら、お昼前に早退したわよ』


早退?じゃあ、一度はここに帰って来たのかも…


でも、部屋の扉を開けっ放しにして、スマホを玄関に落としたままどこに行ったっていうの?


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