涙と、残り香を抱きしめて…【完】

慌てて玄関の扉を開けると、そこに居たのは、仁だった。


「大丈夫か?」

「じ…ん…」


仁の顔を見たとたん
なんだろう…凄くホッとしたんだ…
すると涙が溢れ出し、我慢出来ず彼の胸に飛び込んでいた。


夢中で彼の体を抱きしめる私を包み込んでくれるのは、仁の優しい体温


何も変わってない…


広くて少し硬い胸と逞しい腕


そして、この香り…大好きだった…仁の香り…


でも、仁は私の体を離すと、成宮さんの部屋の中へと入って行く…


「あ…」


私ったら、何やってるんだろう…
仁は成宮さんの事で来てくれたんだ。
なのに抱き付いたりして…
私…ホント、バカだ…


激しく後悔してると、リビングの方から私を呼ぶ仁の声が聞こえてきた。


「特に荷物をまとめて出て行った風には見えないな…」

「だから心配なの。
変な事考えてなければいいんだけど…」

「なんだ?島津は成宮が自殺するとでも思ってるのか?」

「だって…
スパイしてたのがバレたんだもの
ピンク・マーベルには居られないでしょ?

この事が公になったら、デザイナーとしても、もう…」


すると仁は「そんな事、誰が決めた?」と苦笑いしてる。


「でも、こんな形で会社を裏切って、許されるとは思えないよ」

「まぁな、普通はそうだよな。
俺もアイツのした事は許せない。
当然、会社を辞めてもらうつもりだったんだが…

今度の企画のデザイナーを、成宮にと…改めて指名されてな…」

「指名って…誰が?」

「そんなの決まってるだろ?
デザイナーを決定する権限を持っているのは、マダム凛子だ」

「えっ…マダム凛子が?なぜ?」


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