涙と、残り香を抱きしめて…【完】

意外な展開《島津星良side》



《島津 星良side》

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早いもので、北風に吹かれ寒そうに揺れていた街路樹の枝には新芽が芽吹き、心地いい日差しと爽やかなそよ風が運んでくる優しい香りに、道行く人々の顔にも笑顔が目立つ。


季節は穏やかな春を迎えていた。


5月も半ば、マダム凛子とのブライダル共同企画は順調に進んでいる。


私はダイエットにも成功し、程よく筋力も付いてモデルとしての自覚も徐々に芽生え始めていた。


毎日だった桐子先生のレッスンと筋トレも週2回に減り、それ以外の平日は、新たに立ち上げられたブライダルプロジェクトチームの課長として慌ただしい日々を送っていた。


忙しくても充実している。ただ一つ、あの事を除けば…


私を憂鬱にしている原因…それは、このプロジェクトチームの責任者が仁だという事。


出来れば、もう彼とは関わりたくないというのが本音だ。でも、流石にそんな事は言えない。


と言っても、仁がフィットネスクラブに来たあの時以来、仕事以外ではほとんど喋ってないんだけど…


そして、成宮さんも最後の追い込みで忙しいらしく、毎日、残業して帰るのは深夜らしい。だから最近の連絡手段は、ほんとどがメール。


たまには声を聞きたいけど、彼も頑張っていると思うと我がままも言えない。
ホントは声よりも、彼の顔が見たい…


「じゃあ、工藤さん、行きますか?」

「はい。宜しくお願いします」


今日はショーの会場となる結婚式場の工事の進み具合を確認する為、名古屋に来た工藤さんを仁が案内する事になっていた。


6月正式オープンの結婚式場は、まだ工事中


工藤さんは、2週間に一度というペースでここに来ている。雑誌の編集者なのに、まるでマダム凛子の事務所のスタッフみたいだ。


「あ、島津さん、あなたも一緒に来て」

「えっ?私もですか?」

「そうよ。会場の雰囲気とか、事前に見といた方がいいし」

「はぁ…」


仁と余り行動を共にしたくないんだけど…
仕方ないか…


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