涙と、残り香を抱きしめて…【完】

仁の愛車BMWに乗って結婚式場に向かう。


私は助手席に乗っているにも拘らず、仁と工藤さんの会話に加わる事なく、無言で流れる景色を眺めていた。


この車に乗るのも久しぶりだな…


恋人同士だった頃は当然の様に隣に座っていたけど、今はなんだか、凄く居心地が悪い。


まさか私達にこんな未来が待っていたなんて…想像も出来なかったな…


完全に過去の存在になってしまった仁の顔を横目でチラッと覗き見ながら小さく息を吐く。


車は市街地を抜け、両脇に木々が生い茂る山道を登りだす。少し開いた窓から澄んだ空気が車内に流れ込み、とても清々しい気分。


名古屋にこんな所があったんだ…


程なく車が到着したのは、緑の中に浮き上がる真っ白い建物の前だった。


「わぁ!!素敵なチャペル」


思わず、そう叫んでいた。


「本当に素敵な所ね…」


車を降りた工藤さんも気に入った様で、満面の笑みでチャペルを見上げている。


「じゃあ、ショーが行われる中庭を案内しますよ」と、仁が先頭に立ち歩き出し、私と工藤さんがその後に続く。


鉄製の門をくぐり敷地内に入ると、芝生が一面に広がり、石畳みの歩道の横には背の高いコニファーがひんやりとした風を受け、サワサワと揺れていた。


そして、チャペルの入口がある中庭へと到着すると、一気に視界が開け、果てしなく広がる街並みが眼に飛び込んできた。ここは、名古屋の街が一望出来る正しく絶景ポイントだった。


しかし、チャペルに隣接する披露宴会場はまだ工事中で、足場が組まれ時折、金属音が響いてくる。


工藤さんもそれが気になったのか「工事はいつ終わるの?」と仁に聞いている。


「もう終わる予定なんですがね…
大丈夫ですよ。ショーには間に合いますから」

「そう…。それより気になるのは、やっばりお天気ね。
雨が降らなきゃいいけど…」


不安げに空を見上げる工藤さんに、私はずっと不思議に思ってた事を聞いてみた。


「でも、どうして野外なんですか?それも夜なんて…」


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