涙と、残り香を抱きしめて…【完】

不思議がる私に、香山さんは穏やかな笑顔を見せ「私はここの支配人なんだよ」なんて言うから、も一つビックリ!!


「え、えぇー!!そうなんですか?」


驚いた…。お宅にお邪魔した時は、そんな事、一言も言ってなかったのに…


「あれ?て、事は…香山さんは、ご自分が支配人をされている式場で結婚式を挙げる…って事ですよね?」

「そう、かなり抵抗したんだけどね。
桐子と凛子ちゃんに押し切られてしまって…
この年で結婚式なんて、恥ずかしくて堪らんよ」


白髪混じりの顎ヒゲを触りながら、本気で照れてる香山さんが凄く可愛く見えた。


「でも、桐子がそうしたいと言うんだ。希望は叶えてあげないとね」


眼を細め優しく微笑む香山さんから、桐子先生への愛がヒシヒシ伝わってくる。


なんか、いいなぁ…。
桐子先生と香山さん夫婦は、私にとって理想の夫婦。
程よい距離感でお互いの考えを尊重し、相手の気持ちを大切にしている。


私も成宮さんと、そんな夫婦になりたい。


「あら、香山さん、お久しぶりです。
勝手に見させて頂いてます」


香山さんに気付いた工藤さんが駆け寄って来た。


「いえいえ、どうぞゆっくりご覧になって下さい。
おっ!!仁君も一緒ですか?」


こちらに向かって歩いてくる仁を見つけ、手を振る香山さん。


"仁君"?その親しげな呼び方が、なんとなく引っ掛かった。
うぅん。香山さんだけじゃない。工藤さんも仁の事を"君"付けで呼んでいた。


この3人って、いつからの付き合いなんだろう…


3人の繋がりを気にしながらも、暫くの間ショーの話題で盛り上がっていると、工藤さんが急にとんでもない事を言い出した。


「私、香山さんと結婚式の件で少し打ち合わせしたい事があるから、水沢君と島津さんは先に帰っていいわよ」

「えっ?」


先に帰れって…仁と2人で?
流石に、それは…ちょっと…




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