涙と、残り香を抱きしめて…【完】

すると工藤さんが、眼下に広がる街を見下ろし「これよ」と言う。


「これ…ですか?」

「そうよ。水沢君から送られてきた写真の中に、この景色が写ってる写真があったの。
ね、そうよね。水沢君」

「あ、あぁ…。マダム凛子に候補地の式場周辺の写真を撮って送って欲しいと頼まれたんだ。

で、早速、ここに来たんだが…
写真を撮り終わった後、支配人と話し込んでいたら、いつの間にか暗くなっててね。

綺麗な夜景だったからなんとなく撮って、その写真も一緒に送ったんだが…
まさか、こんな事になるとはな…」


仁が困った顔をして頭をポリポリ掻いてる。


「ホント!!全く余計な事してくれるわよ。
マダム凛子ったら、その写真に一目惚れしちゃって、どうしても夜にショーをやりたいって言い出して…

お陰で、梅雨の真っただ中に野外でショーをやる羽目になっちゃったのよ。
当日が雨だったら、水沢君に責任取ってもらいますからね!!」

「そんな…参ったなぁ~…」


なるほど。そういう事か…
でも、ホントにこれは賭けみたいなモノだ。
晴れにならなかったら、大変な事になりそう…


それから工藤さんが仁にショーの内容を説明し、照明をセッティングする場所とかを相談していた。


そんな2人と少し離れた場所で、私は白く輝くチャペルを見上げていた。


もうすぐ私も花嫁として、バージンロードを歩くんだ…
出来れば、こんな素敵なチャペルで式を挙げたいな。


全ての女性が人生の中で一番、幸せを感じ、美しく輝く瞬間。


そして、私が身に纏うのは、愛する人が私の為にデザインしてくれた純白のウェディングドレス…


その日が待ち遠しくて、胸の奥がジンと熱くなる。


自分の結婚式を想像しながら幸せに浸っていると、突然、誰かが私の肩を叩いた。


「やぁ、星良ちゃん」


えっ?この声は…


慌てて振り返ると、そこに居たのは、背の高いロマンスグレーの男性。


桐子先生の旦那様。香山(かやま)さんだった。


「香山…さん?えっ?どうして香山さんがここに?」



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