涙と、残り香を抱きしめて…【完】

東京駅に着く少し前から雨が降り出していた。


もうそろそろ梅雨だもんな…
なんて思いながらコンビニでビニール傘を買いタクシーで成宮さんのマンションに向かう。


一応、住所は聞いていたんだけど、新築の為かマンションの名前がナビに出ず大体、この辺だろうという場所で降ろしてもらい歩いて探すことにした。


「この通りのはずなんだけどなぁ~」


キョロキョロしながら歩く事、数分。
それらしいマンションを見つけ速足で歩きだすと、そのマンションから一人の男性が出て来た。


「あっ…!!」


マンションの玄関で足を止め恨めしそうに空を見上げるその男性は、間違いなく少し髪が伸びた成宮さんだった。


良かった。今日は残業じゃなかったんだ。と、喜びに胸踊らせ駆け寄ろうとした時、小柄な赤い髪の女性がマンションから出て来て、成宮さんの腕に手をまわした。


その行動は、とても自然で、どう見ても恋人同士の様…


でも、そんな事より私を驚かせたのは、その女性が安奈さんだったって事だ。


「どうして?どうして安奈さんが…ここに居るの?」


そう思った瞬間、まるでこっちが悪い事でもしてるかの様に傘で自分の顔を隠していた。


安奈さんが差し出した赤い傘をさし、私とは反対方向に歩き出す2人。


その後ろを、叫び出したい気持ちを必死で抑え着いて行く。


…どうして?…どうして?…どうして?


頭の中が混乱して訳が分かんない…


そんな私に気付く事無く、楽しげに会話をしながら歩いていく眼の前の2人に怒りを覚え、傘を持つ手が震えた。


「今日は仕事が早く終わったんだね」

「あぁ、もうほとんど企画の仕事も終わりだからな…」

「ふふふ…外食なんて、久しぶり~嬉しいなぁ~」


更に体を密着させ甘える安奈さんを後ろから睨みつけてる自分が、凄く惨めで情けなくて…グッと唇を噛み締める。








< 263 / 354 >

この作品をシェア

pagetop