涙と、残り香を抱きしめて…【完】

次の日は土曜日。


本当なら、今頃、東京の成宮さんのマンションに居るはずだったのに…ね。


寂しい一人の休日だ。


昨夜はほとんど眠れなかったのに、朝早くから眼が覚めてしまい重い体にシーツを巻き付けベットの中でボーっとしていた。


考えなきゃいけない事は山ほどあるのに、思考回路は停止状態だ…


しかし、こんな状況でも普通にお腹がすくワケで、ゴソゴソと起きだして冷蔵庫を開けてみるが飲み物以外入ってない。仕方なくコンビニに行く事にした。


昨日はあんな事があったから、夕食を食べてなかったんだ…


寝起きのままのボサボサ頭にすっぴん。
私、女子力が完全に低下してるな…


近くのコンビニでおにぎりを買ってマンションに戻り、玄関の自動ドアを入った直後、ガラス越しに一台の車がマンションの駐車場から出て来たのが見えた。


何気なく振り返った私の後を静かに通り過ぎ、マンションの敷地から出て行くシルバーメタリックのBMW


仁だ…。そして、助手席にはつばの広い帽子をかぶった女性が…


一瞬の事で顔まで確認出来なかったが、あの帽子には見覚えがあった。


あれは…マダム凛子…
どうしてあの2人が…?


駐車場から出て来たって事は…
マダム凛子は今まで仁の部屋に居たって事よね?
という事は、昨夜は仁とマダム凛子は一緒だったって事?


「まさか…」


嘘でしょ?本当に焼けぼっくりに火が点いちゃったの?


でも、ありえない事じゃない。
会社にマダム凛子が来た時の2人のあの怪しげな態度。
それに、仁はマダム凛子が元カノだってアッサリ認めてたし…


何より、安奈さんと別れたのなら、2人が元サヤに納まってもなんの問題もない。


でも、マダム凛子には彼氏が居るはずなんだけどなぁ…


どちらにしても、仁とマダム凛子が一晩を共にしたのは間違いない。


過去にあんなに愛し合った2人だもの
お互い歳を重ね分かり合えた部分があったのかもしれない。


「はぁー…っ」


ため息が漏れる。


成宮さんと安奈さん…
仁とマダム凛子…


なんだか、私だけが独りぼっちの様な気がして、無性に寂しくなった。


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