涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「安奈(あんな)…」


仁の口から、思わず漏れた名前…


その安奈という女性は、小首を傾げ
弾ける様な笑顔で仁を見つめていた。


小柄で、ショートボブの髪は鮮やかなレッド
少し大きめのピンクのジャージ
今時の若い子って感じだ。


「ゴルフやってたんだね。
いいなぁ~あたしもやりたーい」


仁にまとわりつき甘えた声を出す。


「やりたいって…安奈はクラブ持って無いだろ?」


困った様に仁がそう言うと
今まで私の存在なんて、まるで無視してた彼女が
初めて私を見た。


「ねぇ、お姉さんのゴルフクラブ
借りていい?」

「えっ?えぇ…」


満面の笑みで私を見上げた彼女
でも、その瞳の奥にゾクリとする冷たいモノを感じた。


「ダメだ。
安奈の身長じゃあ、この人のクラブは長過ぎる」

「大丈夫だよ。
男性用使ったことあるもん」


そう言うと、私のゴルフクラブを持ち
スクリーンの前に立った。


慣れた感じでグリップを握り
大きく振りかぶる。
そして、小さな体からは想像も出来ないほどパワフルにクラブを振りぬいた。


少しもブレる事のない綺麗なフォーム
スクリーンに表示された飛距離は
私を遥かに上回っていた。


凄い…


「ねっ?ちゃんと振れたでしょ?」


仁には可愛い笑顔を向け
隣の私には、自慢げに眼を細める。


「もういいだろ…」
と、私のクラブを奪い取る仁に、彼女は明るく言った。


「仁君の言った通りだね。
このお姉さん、仁君の好みのタイプじゃないわ」



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