涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「えっ…?」


私は、仁の好みのタイプじゃない?


この子…一体、何者なの?
それに、さっきから仁の事、親しげに"君"付けで呼んでるけど
歳は明らかに10代
ちょっと生意気じゃないの?


「あなた…誰?
水沢さんとは、どんな関係なの?」

「あたし?
あたしは、清水安奈(しみず あんな)
大学1年よ。
仁君とは、このフィットネスクラブで知り合って親しくしてもらってるの」

「…親しく?」

「ふふふ…気になる?
私と仁君の仲」


彼女の挑発的な態度にムカつきながら
一方では動揺して心が乱れる。


「もうよせ。
島津、誤解するな。

安奈とは、ここで良く顔を合わせている内に話す様になって
俺の行ってた大学の後輩だって事が分かったから
色々、相談に乗ってやってるだけだ」

「大学の後輩?」

「あぁ、デザイン学科らしいから
アドバイスとか…な」


アドバイスねぇ…
どんなアドバイスしてるのか
疑わしいところだ。


疑惑の眼で仁をチラッと見ると
彼は慌てた様にポケットから小銭入れを取り出し
私の手に握らす。


「なんだか喉乾いたな…
悪いけど、飲む物買って来てくれないか…」

「はぁ?」


仕方なく、渋々ゴルフ練習場を後にし
自販機のある一階に向かう。


あの安奈って娘(こ)
ただの後輩なんて嘘だ。
明らかに私に敵意を持ってる。


仁と一緒に居た私の事が気に入らない…
そんな感じだった。
つまり、仁の事が好きなんだろう。


でも、私が仁の好みのタイプじゃないなんて
どうしてそんな事、分かるワケ?


マジ…可愛くない娘


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