シークレット・ドア

優しい夜

「どうぞ。ブラックでいいですか?」
「うん。あれ、これファイヤーキング?」
「はい!ご存じなんですか?」
「ちょっと前に集めててさ。アメリカ雑貨好きなんだよねー。いいよね、マグカップシリーズ。」
「使えば使う程愛着湧いちゃうのが不思議ですよね。」
小物にもこだわる男。ぬかりなし。話せば話すほど魅力的な人だなー。
「今度さ、カフェ連れてくよ。ファイヤーキングが沢山あるお洒落なカフェ知ってるんだ」
「えー!行きたいです!ぜひお願いします!」
「そこのチーズケーキ、かなり美味しいから。今月行こうか」
「わー、楽しみです!」
へー。すごいすごい!趣味合う人滅多にいないのに。これも何かの運命だったりして。って、そりゃないか。
「いやー、にしてもすごい本の量だね。しかもほとんど仕事関係。熱心だなあ」
「いえ、実はほとんど読んでないのばかりなんです・・・」
「ははは、ぽいね」
「なんか、勉強しよう!って思って。でも勉強苦手だしやり方わかんないし。とりあえず本買って、情報だけ手元に置いておきたいなって。いつか役に立つと思って・・・けど、遠回りですよね」
「いや、そんなことないよ。その気持ちすっごいわかるし。俺もかなり遠回りはしてきたよ。市野ちゃん、マイペースそうだけどちゃんと自分のペースで力つけていけそうなタイプだし、焦らないでいいんじゃないかな。焦っちゃったら全部がダメになっちゃうからね。少しずつ頑張ってみなよ。」
ポンポン、と頭を撫でられた。
アレ?これって・・・いやいやまさか。子供をあやすような感じなんだろうな。

その後も、佐々木さんとの会話は弾み、意気投合していた。
佐々木さんって、なんだか包容力がある素敵な大人だ。
話せば話す程完璧なんだもん。

「げ、もう3時!?ごめん、長居しすぎた!」
「わ、ほんとだ!いえいえ、私は大丈夫ですよ。」
「いやー、コーヒー飲んだら帰るつもりだったのに・・・。予想以上に話し込んだねー」
「ですね~。でも、すごく楽しかったです!」
「うん、俺も。近々またご飯行こう」
「はい!あ、今日は帰りますか?」
「そうだねー。明日も仕事でしょ?」
「はい。でも全然私は平気です。職場でよく寝ちゃうし・・・眠くないです」
「職場で寝ちゃダメっしょ。はは。」
「泊まって行かれますか?家遠いのでしたら、睡眠時間そんなにとれませんよね」
「んー。そう言われたらそうなんだけどねー・・・うーん」
「布団、敷きますし大丈夫ですよ」
「本当?じゃ、お願い」
「はーい」
自分のベッドの横に、来客用の布団を敷いた。
ベッド使っていいですよと言ったけど、やはり「布団でいいから」と断られた。
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