北風と太陽と、その他諸々
そのメールは、もちろんユエの元にも届いていた。
それを送った千夏は、昼休みのチャイムがなった瞬間にユエのクラスまで走ってきた。
その後、すぐにあやめも心配そうにやってきた。

千夏もあやめも、高校に入って初めてできた友達で、去年はクラスが一緒だったが、今年は3人ともバラバラになってしまった。
それでも、今年からクラスが一緒になった絵里奈と4人でよく集まっている。
3人ともタイプはバラバラで、晴斗と理央は、千夏をユエの友達のうるさい方、あやめを静かな方などど呼んでいた。
確かに千夏はいつも元気で明るく、離れていても声が聞こえるし、あやめは真面目でおとなしく、必要なときしか話さない。
だけど一緒にいると、とても楽しいのだ。
それから、絵里奈は根っからのお嬢様で、とても美人。高飛車な発言が多いが、ズケズケという発言は、案外的を得ているので、聞いてきて気持ちが良かった。

その絵里奈も弁当を手にユエの席までやってきた。

「ちょっと!どういうことなのよ!?」

千夏がユエの座っている席の机に両手をついて、いつもより更に大きな声を出す。いつも頭の高い位置に一本に縛っている髪が大きく揺れている。大声出されれているのは私なのに、呑気に新しいシュシュ買ったんだ。などと、ぼんやり思った。

「ユエっ!?」

「さ、さぁ?どういうことなんだろうね?」

余りの気迫にたじろぎながら言う。

「どういうことなんだろうね?…って、あんた和泉くんが生徒会長に盗られたかもしれないのに、そんな悠長にしてていいの⁉」

「ユエ、あなた最近考え事してたのは、この事?」

絵里奈が口を挟んだ。

「もしかして、付き合ってるの知ってたの?なんで?いいの⁈」

千夏は全く声のトーンを下げない。

「いいの?って言われても、別に私が理央の彼女は決められないし…まぁ、友紀ちゃんは可愛いし、良いんじゃないのかなぁ?」

いつも通りにぽわっとした口調で、なるべく無邪気に響くように言う。

「なによそれ…だって、誰がどう見たって、和泉くんは、あんたの王子様じゃない!」

「王子様?」

あまりにも千夏に似合わない言葉だったので、キョトンとしてしまった。

「王子様というか、お姫様を必死に守る騎士というか…。」

絵里奈が呆れ顔で言う。

「なあに?それ。」

「はぁ…あんたにはそれが当たり前すぎて、気がつかなかったのね。」

千夏も絵里奈同様呆れる。

「?」

首を傾げる。

「あんたに悪い虫がつかないように、必死に守ってるじゃない。」

「まぁ、妹みたいなもんだからね。」

薄く笑顔を浮かべていうと、絵里奈が大きくため息をついた。

「本当にそう思ってるの?どう見たってあれは違うわよ。」

「え?」

目を丸くすると、あやめまで呆れた顔になった。

「本当、和泉くんに同情するわ。」

「ここまで鈍感だったら、諦めて、他の女のところに行っちゃうわよね。」

千夏と絵里奈が口々に言った。
するとあやめも口を開く。

「ねぇ、ユエちゃん。本当にいいの?和泉くんが他に彼女がいても嫌じゃない?」

その言葉に、ふとあの放課後の教室の光景がまた目に映った。
そして、昨日抱きしめられたことも。

「…嫌じゃないことはないけど。」

ぼそっとこぼすと、3人がびっくりした顔でこちらを見た。

「どうして?」

あやめが注意深く聞く。

「…うーん。なんていうか、なんとなく嫌。」

3人の期待の目が、一気に落胆の目に変わった。

「まぁ、でも、嫌だって思ってるのがわかってるならいいわ。今は。」

絵里奈がわざとらしいため息をつく。

「和泉くんにそういうこと素直に言った方が良いよ。今更遠慮する仲でもないでしょ?」

素直になれないのは千夏も同じ…と喉まで言いかけるが、無理矢理に飲み込む。

「でも、理央が決めることだから…

「何もしないで後悔するよりは、少しぐらい困らせても言うべきよ!分かった⁉」

絵里奈がいっそう声を張り上げて言い切った。
仕方なく曖昧に頷いておく。


分かっていた。
理央がずっと私を守ってくれていた理由も、それに甘えていた私が今こんなに辛い理由も。
本当はみんな分かっていた。
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