スカイグリーンの恋人


廊下の立ち話をやめ、オフィスに入るように促された。

えっ 中で話すの? と不可解な顔をすると、彼はデスクからファイルを

持ち出し 「これを持ってついてきて」 と私に渡す。

不自然なほど大きな声で 「ミーティングルームはあいてるね 少し借りるよ」

と近くにいたスタッフに声をかけ、ことさら難しそうな顔をしてオフィスを

出ると、廊下の奥のミーティングルームに入り鍵をかけた。


彼と池田君の関係は、他人の耳に入っては困るほど複雑なものなのか。

それとも、私との関係を知られないために神経質になっているのか。

用心深く鍵をかけてから私に向けられた顔を見つめたけれど、

彼の微笑みからは、心の奥は読み取れない。



「君がシンを見つけてきたとき本当に驚いた 

あの小さかったシンがこんなになってるなんて

僕も歳をとったと思ったよ」


「そんな小さい頃から知ってるの?」


「シンがまだ小学生だった 僕は大学生になっていたけどね

家が隣同士で 親も親しく行き来してた」



保彦さんと池田心君の過去は、部屋に鍵をかけてまで秘密にするほどの

話ではない……

と思っていたのに、最後の告白は思わせぶり。



「……とまぁ 僕の一家が引っ越すまで シンの家族とは付き合いがあった」


「隠すことなんてないのに どうして?」


「僕のその後を 母親同士が知っていると思った

シンに聞いたら 僕のことはお袋さんに聞いたといっていた だから……

シンに口止めした 会社の誰にも話すなよってね」


「あら 気になるわね あなたの過去」


「気にするなといっても気になるか……この続きは今度話すよ 

もうすぐ誕生日だろう 佐名子の33歳をお祝いしよう」


「誕生日が嬉しい歳じゃないわ それに具体的な年齢を言わないでよ」



彼の手が私の腰を引き寄せる。

女性が輝くのはこれからだよと優しくささやかれたら、拒むことなどできない。

もっともらしい理由をもうけて私をここに連れてきたのは、

誰にも邪魔されない二人の時間を持つため……

私を喜ばせる言葉を告げた唇が、鎖骨へ近づき喉をせりあがる。

拗ねたことを言ったけれど、彼が誕生日と年齢を覚えていてくれたことが

嬉しかった。 




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