恋に恋して恋をする。
トイレの真向かいの部屋は、ついさっき客が帰ったばかりのようで、まだ散らかっていた。


どうやら、そこを片づけていた彼が私を助けてくれたみたいだ。


「ごめん、痛かった?」


奏くんは私の腕をつかんでいた手をパッと離した。


私はブンブンと首を横に振って「ありがとう」と呟いた。


「……やっぱ奏くんの言う通りだったよ。慣れないマネはするもんじゃないね」


ははは、と力なく笑うと余計惨めで、視界がぼんやりと滲んだ。


ヤバい!泣いたりなんかしたら、また何て言われるか……


手の甲で口をふさいでうつむいていると、ふわりと温かい感触が髪に触れた。


「我慢しなくていいよ。からかったりしないから」


私の心を読んだみたいにそう言って、奏くんはぽんぽんと頭を撫でてくれた。


頭なでなでとか、反則でしょ……


私の涙腺は一気にゆるんで、ポロポロと涙がこぼれた。


奏くんはしばらく黙ってなでなでしてから、ぽつりと話しはじめた。


「まぁ、俺が思うに、アイツが小島さんに気があったのは図星だろーな」


「えー?それはないよ。バレリーナとか言ってたし」


「何で?いーじゃん、バレリーナ。かわいいよ」


かっ!……わいいとか、この人はよくもまぁサラリと……


「それと、これも俺が思うに、女の子のファッションに文句言う男は…」


奏くんはズバリという感じに人指し指を立てた。


「器が小さい」


そして、にんまりと笑った。


まだ目が真っ赤だった私は、不覚にもぶっと吹き出して笑ってしまった。





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