ノータイトルストーリー

Case:覚_phase04





会議が終わり席に戻ると案の定、





佐々木は吉岡に呼び出されていた。





必死に訳を説明しているようだが、





吉岡の顔色は一向に濁ったままだ。





ギョロっとした目で佐々木を射抜き、





時折、口が動いているが、怒鳴りつける事もせず、





チクりチクりと傷口を責める。





正に『ヘビに睨まれたカエル』であった…





小一時間が過ぎただろうか、





ようやく『ヘビ』の束縛から解放され、





テクテクと席に戻る。





意外なことに、しょんぼりとした様子はなく、





なんとかやり過ごし、





ギラギラした目でヘビをチラリと見た。






佐々木の打たれ強さと負けん気には、





時折、頭が下がる程尊敬に値する…






私は、自販機で冷たい缶コーヒーを二本買った。





その一本を佐々木にほいっと、投げ渡した。






それをキャッチした佐々木と目が合う。





「お疲れさん(笑)」





「あざっす(苦笑)」





言葉こそ発さなかったが





そこには確かにそんな会話があった。






缶コーヒーをプシッっと開け一口飲み込み、





たばこに火を付け、パソコンの電源を落とした。






パソコンは「チャラララン…」と音を立て画面が黒一色になると、





くわえたばこの何か言いた気な中年男の顔が映った…





「そんな顔すんなよ、お疲れさん」なんて心の中で呟きかける。





そして、いつものように1日が終わる…





さぁ、家に帰ろう。





出口で佐々木の「今日はデートだ♪デート♪」と鼻歌に追い越され、





少々羨ましくも微笑ましくもまた懐かしくもあった…





車に乗り込み、キーを回し、





エンジンを掛けるとドュルルンと勢い良く排気ガスを吐き出した。





車は会社をあとにし、





私は家路に向けてハンドルを回した。




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