Special Edition
彼女にはここへ向かう車内で、
何も喋らず、にこやかに微笑んでいればいいとだけ話した。
実際、話したくても話せる状況では無い。
四方からコメントを求める声が飛び交い、
視線を向けろと執拗に迫られる。
だから俺は、彼女を連れて来たくなかったのに。
ホテルスタッフが盾になってくれ、
数分の我慢で席に着く事が出来た。
「京夜様」
「………ん?」
「…………怖かったです」
「だよな」
さすがに俺も困り果てた。
今日は招待されている側だからこそ、目立ちたくはない。
出来れば、挨拶だけ済ましてサッサと帰りたいくらいだ。
俺は彼女の目の前に用意してあるナフキンを手に取り、
素早く彼女の膝元にサッと掛けた。
「ありがとうございます」
「………」
「………京夜様?」
「………」
不機嫌オーラ全開の俺の顔を覗き込む彼女。
理由は明らかだ。
「………どうかなさいましたか?」
「さっきの男、うちの社員じゃないのが唯一の救いだな」
「へ?」