Special Edition

白檀の香りを纏う衣服を脱ぎ、湯に浸かれば必然と白檀の香りは消える。
それに気づいたソウォンは、大胆にも湯殿でヘスに会おうと考えたのだ。

「世子様」
「ん?」
「悪阻が治まるまでの間だけでいいので、香を焚くのを少し控えては貰えませんか?」
「香?」
「はい」

世子に会うのを我慢したらいいだけ。
そうすれば、香りによる吐気は治まるだろうが、初めての懐妊ということもあって、ソウォンは不安に駆られていた。
少しでもヘスに傍にいて欲しかったのだ。

「香を焚くのを控えればよいのか?」
「……ご無理は承知の上ですが」
「もしかして、悪阻と香とが関係しているのか?」
「………はい。どうも白檀の香りが駄目なようです」
「それを早くに言わぬかっ!」
「申し訳ありません」
「すまぬ、気付いてやれずに。直ぐにでも尚宮に伝えておく」
「有難うございます」
「だから、ここへ来たのだな?」
「っ……、はい」

肌に纏う香の匂いですら湯で洗い流したヘス。
すっかり薬湯の香りに包まれ、ソウォンの表情も明るい。

湯浴み用の支度のソウォンを湯船に浸からせ、白魚のような華奢な手を引き寄せる。
そして、ソウォンを自身の膝の上に乗せ、ソウォンの肩に手で掬った湯をかけるヘス。
その手は、久しぶりの感触を味わうようにソウォンの滑らかな肌を伝う。

自然と絡み合う視線。
ヘスは久しぶりに触れ合えた幸せを噛み締めていると。

「御子が生まれても、こうして私の傍にいて下さいますよね?」
「ッ?!何を申す。共白髪になってもこうして共湯をするゆえ、覚悟しろ?」
「へっ?」

驚くソウォンに耳元に近づいて……。

「身籠ってても、共寝は出来るらしいぞ」
「ッ?!」
「今宵はそなたの部屋で休むゆえ、待っておれ」
「っ……んッ……っ……」

身籠ったからといって、ヘスの想いは目減りしそうにない。
それどころか、お腹の子にまで嫉妬しそうな勢いだ。

まだ酉時(ユシ)の刻(午後五時から七時頃)だというのに。
今宵は一段の長い夜になりそうだ。

~FIN~

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