結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】

 父



好きだと言ったことはない

彼女からも聞いたこともない



親密になった僕らを サークルの連中は驚くでもなく



「遠野と付き合える子は そうそういないよ 実咲くらいだ

実咲のオタクに付き合えるのも 遠野ぐらいだ」



変わり者の二人が付き合いだした 意外でもなんでもないと

外野は思ったほど騒がない

サークル内に小椋が二人いるため 実咲は初めから名前で呼ばれていた



「妹が実咲のことを親父たちに言ったんだ そうしたら

親父が 学生らしい付き合いをしてくれよって……その言い方が可笑しくて 

でもさぁ 学生らしい付き合いってどんなだと思う?」



そうねぇと 実咲は口をギュッと閉じ あごに手を当てて真剣に考える



「子供ができないようにして欲しいってことなんじゃないの?」


「やっぱりそうだよなぁ……」


「学生らしい付き合いねぇ 手でも繋いで寝る?」


「あはは……そんなの無理だぁ 

こんな格好で 何もしないって方がどうかしてる」



春の柔らかな日差しが部屋に入ってはいたが 互いの体温で暖をとるように

肌を寄せていた

僕の答えに実咲が大げさに笑い 肩が揺れるたびに 巻き毛も揺れた

首筋から胸元に流れた髪を 指を絡めて掬い取る



「成人式がすんだら 髪を切ろうと思ってたのに 

賢吾のせいで切れなくなっちゃったじゃない」


「切るなよ もったいない ショートよりぜったいロングの方が似合ってるよ」


「えぇーっ 本当にそう思ってる? 

私の髪で遊びたいから切るなって言うんでしょう」


「そんなことないさ……短くなると こんなこともできなくなる……」



白い肌に 柔らかな色の髪が ハラハラと乱れるさまは美しかった

髪を手に巻き込みながら 実咲の胸元を指でたどる

毛先が乳首に触れるたびに 細い声が漏れた



「ねぇ もう起きなきゃ……誰か来たら困るわよ……」


「誰も来ないよ 俺の部屋に来るヤツなんていないよ」


「でも……明るいし……」



実咲の困ったような顔を もっと見たくて乱暴に抱き寄せた



「賢吾って ときどき子供みたいなことするんだから 

こんなにいい天気なのよ ほら 今日はお布団干すんだから起きて

私が干さなきゃ 賢吾何にもしないでしょう 

ベッドもたまには風通しをしなきゃいけないのよ」

  

朝の明るい日差しの中で抱き合うことに 実咲がまだ 抵抗があるのを

知っていた



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