結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】


携帯が鳴った 父からの電話だった



「賢吾 今 部屋にいるのか」


「いるよ どうしたの?」


「お前の部屋の前に来てるんだ 行ってもいいか」



直感ってのは こういうことを言うのだと驚いた



「ちょ ちょっと待って」



電話をふさいで実咲に声をかける



「親父が部屋に来てもいいかって すぐそこにいるらしい どうする」


「ほら 私の言ったとおりになったじゃない 私ならいいわよ 

賢吾は困るの?」


「いや 困らないけど……なんだかなぁ」



実咲がいいのなら 親に会わせるのもいいかもしれない

今更来ないでくれと言っても 何か感づくだろう

待たせた電話に いいよと返事をし 父が来るのを玄関前で待った



「こんにちは 急に来てごめんなさいね」



朋代さんも一緒だった





二人を部屋に通すと 部屋は 短い間に綺麗に片付いていた

キッチンでは ケトルがカタカタと音を立て お湯が沸かされている



「こんにちは お邪魔しています はじめまして 小椋実咲です」


「こんにちは 賢吾の父です」



こっちは付き合っている彼女を親に見られるときの なんともいえない

恥ずかしさを感じているのに 実咲の方は 平然としている



「こんにちは……ねぇ 賢吾君 私はなんてご挨拶したらいいかしら」



朋代さんが僕を見て苦笑いしている



「彼女 知ってるから」


「良かった……実咲さん こちらこそはじめまして 

急にお邪魔してごめんなさいね ビックリされたでしょう」



実咲が ”いえ そんなことありません” と なんでもなく答えている

ここで慌てているのは 結局僕だけだった



「これ 朝市に行ったら新鮮な果物がたくさんあったの」



食料品の入った袋があった

”お茶を入れてくるわね” と実咲は言うと 朋代さんから当たり前のように

袋を受け取ってキッチンに運んでいった




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