結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】


「葉月はどうしたの 留守番?」


「マンションに同級生の女の子がいて その子のところに遊びに行ってるのよ」


「へぇ そうなんだ 友達ができて良かったじゃない」



転校して 友達ができるか心配だったが良かったよと 父が安堵の顔をしている

葉月は 引っ込み思案な性格ではないと思ってはいたが 僕なりに

心配もしていたので安心した



「どうぞ」



実咲が 慣れた手つきで紅茶のカップを差し出す

カップを受け取りながら 朋代さんが 思い出したように 

ふふっと吹き出した



「こんなこと あったわね……」


「うん……」



父と二人 なにが可笑しいのか 忍び笑いをしている



「なんだよ 二人で笑っちゃって 何が可笑しいんだよ」


「結婚する前 同じようなことがあったの 私の部屋に母が急に遊びに来て

そのとき一緒にいたから 慌てて……ねぇ」



父が照れくさそうに笑っている ははぁ……そういう事か



「お父さんも朋代さんの部屋に泊まってたんだ ふぅ~ん」


「賢吾 そういうのを語るに落ちるっていうんだ バカ」



実咲が僕をしきりに突いている

うん? 何か変なことを言ったかな……あっ!


”お父さんも……”って


昨夜 実咲がここに泊まったと告白したようなもんだ

親の前で彼女とのことを すべて見透かされてしまったようで 

いたたまれなくなった

僕のそんな様子が可笑しいのか 実咲まで一緒になって笑っている

そんなに笑うなよ  





「今度は一緒に遊びに来てね 葉月も待ってるから」


「うん 近いうちに行くよ」



30分ほど部屋にいて 父たちは帰っていった





「お父さん ステキな方ね 葉月ちゃんのお母さんも……

賢吾 朋代さんって 名前で呼ぶんだ」


「小さい頃からずっと そう呼んでたから 変かな?」


「うぅん 変じゃない とってもいい感じ 

いいお付き合いをしてるんだなぁって思ったの

だって 普通は そんな付き合いできないんじゃないの? 

賢吾もお父さんのご家族も どちらも努力したんだよね」



努力した……そうだろうか 僕にはそんなつもりはなかった

実咲に言われるまでなんとも思わなかった

僕と父の家族の関係は 傍から見ると理解しがたい関係なのかもしれない



この歳になって ようやく気がつくなんて 

まったくのんきに過ごしてきたものだと呆れながら

実咲の鋭い観察眼に感心していた




< 18 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop