結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】


夏休みに入り 合宿に行く前の週 父の家に行った

葉月が 僕が最近顔を見せないので 機嫌が悪いと朋代さんから聞いていて

実咲さんも一緒に夕食をと言われ 彼女が用意した土産を持って出かけた



「あれ? 葉月いないの?」



いつもなら 玄関に走るように出てくる妹が出てこない

迎えてくれた朋代さんが いるわよ とリビングに視線を移しながら

教えてくれた



「わぁ かわいい……」



ソファに 父に抱かれるように眠る葉月がいた

ゲームをしていたのか コントローラーが出しっぱなしだった

背が高くなり大人びたと思ったが 父の懐にいる姿は小さい頃と変わりなく 

閉じた目は メガネをはずした父の目とそっくりだった


自分の小さい頃を思い出した

伯母の家に行くと 父やいとこ達とよくテレビゲームをした

長時間ゲームをしないようにと 時折声を掛けてくれた父は 子供達に

付き合いながら いつの間にか寝入っていることが多かった

その懐にもぐりこんで ぬくもりを感じながら 僕もいつの間にか

眠ってしまうのだ



「賢吾君も 同じように寝てたわね」


「うん……」


「葉月もおんなじ ゲームをしてたのに 

気がつくとお父さんの腕にもぐりこんで……」


「この写真 いつ頃? 賢吾かわいい」



サイドボードの飾られた写真を覗きこみ 実咲が小声で聞いてきた



「ちょうど10年前のお正月よ 賢吾君が4年生」


「ふふっ 賢吾のおなかの上に乗って可愛い 

葉月ちゃんを抱っこしようとして出来なかったんでしょう」


「忘れた……」



忘れてなんかいない 鮮明に覚えている

初めて会った小さな子が おまえの妹だと言われ 最初は嬉しかった

友達はみんな兄弟がいるのに なぜ僕にはいないのかと母に問い 

いつも困らせていたから……


嬉しかったけれど それは最初だけ みんなが葉月ばかり可愛がり 

僕には声を掛けてくれなくなっていた

寝かされている葉月に近づくと 無邪気に笑う顔が可愛くてたまらないのに 

コイツが生まれたばっかりにと 憎らしく思う気持ちも同時にあった

叩いたりつねったりしたところを 朋代さんに見咎められ何度も注意された

姿が見えなくなると また繰り返した




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