結婚白書Ⅳ 【風のプリズム】

 真実の先に



始発の新幹線は乗客もまばらで 考え事をするには好都合だった

後部座席に人がいないことを確かめ シートを深く倒すと 

僕はゆっくりと目を閉じた


瞬く間に 夜の書斎の風景が目の前に浮かんできた

いつも笑みを絶やさない和音おばさんの顔は 昨夜は沈痛な面持ちで 

その重い口は 僕に問われるままに十数年前の出来事を語り始めた 



「お義兄さんと朋ちゃんが結婚したのは 14年前の4月だったわね 

光輝がお腹にいたから良く覚えてるの」


「14年前の4月……僕は2年生だ えっ? 両親は離婚したばかりだよ 

親父はすぐに再婚したの」


「そうじゃないわ 賢吾君のご両親が離婚されたのは もっと前なの 

あなたが1年生の夏頃だったはずよ」


「そんな前だったんだ……だけど1年経たないうちに朋代さんと結婚してる 

まさか お袋と離婚したのは 朋代さんのことが原因で……」


不倫と言う言葉が喉元まででかかったが 口にすることは出来なかった

言ってしまえば 葉月が汚されてしまいそうだった



「お義兄さんはそうじゃないと言ってたわ 

朋ちゃんと自分の離婚は関係ないことだって……

こちらに赴任が決まった頃は もうあなたのお母さんとは

上手くいってなかったそうよ

ちょうどお母さんがお仕事を始めた頃で 一緒に赴任するのも拒まれた 

こちらにもまったくと言っていいほど いらっしゃらなかったそうだから」


「お袋とは離婚するつもりだったってこと?」


「そうね いずれはそうなったでしょうね」


「朋代さんとの事があったから 離婚したってわけじゃないんだ」


「うーん そこは私にもわからない 

離婚の直接の原因は朋ちゃんとは関係ないと聞いているけれど 

朋ちゃんに出会ったことで あなたのお母さんとの離婚が

具体化したのかもしれないし そうでないかもしれない」 



両親の離婚の原因が朋代さんにあったのか なかったのか 

和音おばさんの答えはグレーだった




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