もっと美味しい時間  

「百花。ちょっと起きれるか?」

「う、う~ん……まだ眠い……」

「俺、そろそろ出かけるから」

「うん……。で、出かけるっ!?」

『出かける』の四文字に、ベッドから飛び起きる。
目を細めて時計を見ると、もうすぐ朝の8時になろうとしていた。

「慶太郎さん、ごめんなさいっ!! 美味しいチーズトースト作ってあげるって言っておいて、寝坊しちゃうなんて……」

「仕方ないさ。3時間しか寝てないからな」

そう言うと、クリーニングから戻ってきたばかりの皺ひとつないスーツのままベッドに潜り込み、裸の私を抱きしめた。



慶太郎さんが大阪に転勤になってから、もうすぐ3週間。
あの駅で慶太郎さんを見送った日は、週末には逢いに行けると思っていたのに、それは叶わぬ夢となってしまった。
初めて私個人に任された仕事は思った以上に大変で、残業では足りずに休日出勤せざるを得なかった。
その翌週は、何の連絡もなしに母がいきなり遊びに来てしまい、泣く泣く諦めることにした。
何度頭の中で叫んだことか……。

神様のバカーーーっ!! 愛し合ってる二人を逢わせてくれないなんて、どんだけ意地悪すれば気が済むんだーーーっ!!

てね……。
そのまた翌週は鼻息も荒く仕事をこなしていると、美和先輩や寺澤くんから「その気迫が怖い」なんて恐れられちゃうし……。しょうがないでしょっ。また休日出勤にでもなったら、遠距離恋愛を続ける自信、なくなっちゃうよ……。
でもやっとのことで昨日の金曜日。定時で仕事を終えると、みんなへの挨拶もそこそこに猛ダッシュで駆け出し、すぐに新幹線へと飛び乗った。



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