もっと美味しい時間  

「あなた~、百花ちゃんが来てくれたわよ」

大きな声で奥の方に呼びかけると、すぐに旦那さんが出てきた。
慌てて頭を下げると、手に持っている物を私の前に差し出した。

「今日から、よろしく頼むね」

そう言って渡されたのは、ご夫妻が身につけている物と同じエプロンと帽子。
奥さんがそれを私につけてくれると、洗いたてなのか微かにシャボンの匂いがした。
そして帽子を被ると、キュッと身が引き締まった。

「ありがとうございます。えっと……」

そう言えば、二人の名前を教えてもらっていない。いつまでも、旦那さん奥さんでは呼びにくい。

「すみません。お二人のお名前、教えていただいていいですか?」

「あっそうだね、まだ言ってなかったか。僕は誠二、妻は愛子さんです」

「誠二さんに愛子さん。お似合いですね」

誠実そうな人柄の誠二さんに、愛がいっぱい溢れている愛子さん。
そんな二人と働けることに、心が嬉しさで満ち溢れた。

「さぁ、そろそろ客足が増えてくる。百花ちゃん、頼むよ」

「はいっ!!」

慶太郎さんに「迷惑かけるな」とか「大丈夫か」なんて言われ続けていたから、ここに来るまで多少の不安もあったけれど、今は微塵も感じない。

「さぁ百花ちゃん、一緒に頑張りましょうね」

愛子さんと微笑み合うとお店のドアがゆっくりと開き、ドアベルがお客さんが来たことを知らせた。

そして「いらっしゃいませ」の言葉と同時に、私の新しい日々がスタートした。






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