【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

紀之さんはタバコを取り出すと、ゆっくりと銜えて火をつけた。

紫煙が辺りに漂い車内を漂う。

それを目で追いながら紀之さんの言葉を頭の中で整理する。

記憶のどこをどう探っても今までに聞いたことも無い事実だった。

「聖良さんが? そんな話初耳だ。大体僕達のせいって何のことだ?」

「お前は知らないだろうが、聖の母親の楓(かえで)は一族の中でも才色兼備で有名で、春日のジジイのお気に入りだったんだ。
いずれ春日に嫁がせたいと思っていたらしい。
それなのに水谷家は、楓をどこの馬の骨とも知らない男にくれてやったんだ。
ジジイは怒り狂ったらしいぜ」

フウッと大きく溜息と共に煙を吐き出すと、狭い車内はあっという間に煙草の煙が立ち込める。

抗議するように僅かに窓を開けると、とたんに、夏の午後独特のムッとした空気が流れ込んできた。

「二人は東京を離れ、一族との連絡も絶って幸せに暮らしていたらしい。
だが、ジジイはコケにされて素直に許すような奴じゃねぇ。
幼い頃の楓に似た聖良を気に入ったらしく、養女に寄こせとかなりしつこく迫ったらしい。
だが楓はそれ激しく拒んで泉原と水谷に相談して娘を護ろうとした。…その矢先、楓の夫が交通事故で死んだんだ」


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