【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

「…僕は誰とも婚約なんてしない」

「お前と婚約しなければ、百合子はまたモノのように誰かと婚約させられるんだろうな。
今度は一族ではないかもしれない。…会社の利益になるような、何処かの御曹司かもしれない」

「…そんな、彼女の意志はどうなる? 紀之さんは平気なんですか?」

「平気な訳ないだろう!? 聖良がダメなら百合子か?
廉が要らないと言ったら別の男か? 百合子を何だと思っていやがる。
誰も百合子の事を考えもしない。自分達の恋にしか目を向けない。お前達が自分の事ばかり考えて行動しているその影で良いように振り回され犠牲になっているのは百合子なんだ」

紀之さんはギリッとフィルターを噛み切ると、怒りと共に灰皿に押し付けた。

苦しげな横顔に浮かんだ深い悲しみに、僕達のせいだと言った彼の苦しみが痛いほど解った。

この人は百合子さんを心から大切にしているのだ。

「わかるか、廉。ジジイにしたら結婚に愛なんて必要ないんだ。
より濃い血を求めるためには手段を選ばない。
つまりあの娘の事でお前がいつまでも婚約を拒み続けたとしたら、ジジイが再びあの娘に手を出さないとは言い切れないんだ」

「そ…んな…」

「あのジジイの残酷さには反吐が出る」

「紀之さんは…春日の味方じゃないんですか?」

「春日? あんなもの…っ、俺だけの問題ならあんな家に従うもんか」

「…じゃあ、もしかして百合子さんの為?」

紀之さんの表情が一瞬揺らぎ、柔らかなものが宿った。

言葉はなくても彼の心の内が手に取るように解った。

多分紀之さんは、僕と同じだ。

大切な女性を一族から護りたい。

手段は違っても、その想いは同じなのだろう…


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