スクランブル・ジャックin渋谷
人型信号機が、青から赤に変わった。

宏は、交差点の中央でポカーンと突っ立っている。

宏の左右を、自動車が往来している。自動車が、動き出したようだ。

自分の存在が、自動車の交通を妨げている。かつ、危険な場所にいることを自覚する。
普段の正常な渋谷の街に、戻っているのだ。

ツバを飲み込み、冷や汗をかいている。

歩道上の人々は、信号待ちをしている。いつもの賑わいを見せている。
宏の左右を、数百台の自動車が往来する。

宏は、警察官だ。左右の手を振り出した。手と腕を使って、人間信号機になった。
この場を、その方法でごまかそうとしている。

手と腕を振り、足を動かしてステップを踏む。何だか、動きが鈍い。ぎこちない。動きが硬い。ロボットダンスだ。

宏は、信号の指示を出しながら踊っている。手と腕と足と腰などが、自分の意志と関係なく勝手に動いている。真顔で踊っている。

ハチ公前広場で、信号待ちをしている人々。
道玄坂通りで、トラックや自動車等が停車する。

人型信号機が、赤から青に変わった。人が交差点を歩行するようだ。

ところが、人型信号機の「青」が、突然踊り出した。LEDの点滅に合わせて、青がダンスを始めている。

ハチ公前広場から、大勢の人たちが交差点を渡り歩き出した。
各方面の大通りから、交差点内ですれ違う。

宏が、まだ1人で信号機のようなロボットダンスを踊っている。
宏を中心にして、人々はゆっくりと臆することなく歩いている。

宏が1人で踊っていても、通行人は誰も気にも留めていない。
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