スクランブル・ジャックin渋谷

第十六章 愛の伝言板

モニタービルA
 「愛の伝言板」と称したテロップが、モニター画面いっぱいに流れる。

 恋愛ムードのあるBGMが、流れる。
ミュージックP、開始。

◎「敏子さん、お誕生日おめでとう。光彦」
◎「ゆかりちゃん、あの時はごめんなさい。明」

◎「美喜さん、僕と付き合って下さい。俊介」
◎「博恵。俺と苦労をともにしてくれ。結婚して下さい」

交差点
 もどかしくも回りくどいやり方での、結婚の申し込み方法。

宏は、照れ屋なのだ。素直になれないのだ。恥ずかしいのだ。
 この画面を流すだけで、10万円の費用を要している。

博恵、その画面を確認する。感激のあまり声を失い、涙ぐむ。宏をきつく抱きしめる。

 ぎこちなく踊っている宏。この抱きしめ方は、モニターを見てくれたなと、確信した。

 踊っている、周囲の人たち。誰も、モニターを見ている人はいないようだ。

 でも博恵は、まだ不満だ。宏の口から、言葉で正式に申し込んでもらいたいと願っている。その言葉には、10万円以上の価値がある。
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