饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「今までは、儀式の意味がなかったんです。これまでの儀式で、供物がちゃんと神に届いていれば、水害はそれほど起こらなかったかもしれません。この川には、本当に神がいたのですから、供物を貰っておいて、さっぱり願いを聞かないなんてことはないでしょう。でも実際は、供物は一つも神の元へ届いてなかった。だから、儀式はされてないのと同じことなのですよ」

 ぽかんと、老神官は虎邪の説明を聞いていた。
 やがて視線を川へと移し、首を捻る。

「でも・・・・・・供物はなくなっているのですよ? 前にも申しましたが、私が頂くのは、ほんの二、三割。神の元へと届いてないのなら、その辺に溢れているのではないですか?」

 ふ、と眼を細め、虎邪は森を見渡した。

「この辺りは隣町と、最も近いそうですね。そこを真っ直ぐ行けば、すぐに隣町に入る。以前神明姫とこの森の近くに来たときに、隣町の権力者とかいうデブに会いました。権力者というだけで、長でもないような奴でしたが、不相応に着飾ってましたね」

「・・・・・・あの男、まだこの辺をうろついているのですか」

 憎々しげに、老神官が呟く。
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