饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「それがちょっと、力がいるのですよ。わたくしのような老体には、ちょっとキツいので・・・・・・」

「力? 仮にも神官なのでしょう? 見たところ、この町にはあなたしか神官がいないようではないですか。ということは、あなたはそれなりに、力ある神官なのではないですか?」

 一人で万事司ることができるのであれば、神官としての力はそれなりのはずだ。
 が、老神官はまたしても、いやいや、と手を振る。

「そうではないのです。単純に、こっちのほうですよ」

 ぽんぽん、と己の二の腕を叩いて見せる。

「腕力ですか」

 貢ぎ物が多いということか? と眉を顰める虎邪に、老神官は三度いやいや、と手を振った。

「供物がね、生け贄なので」

 にこやかに言う老神官の言葉に、虎邪は思いきり仰け反った。
 暴れる生け贄を抑え込まないといけないのなら、確かに腕力は必要だろう。

「こ、古典的な儀式ですな・・・・・・」

 都市の儀式では、生け贄などは使わない。
 もちろん昔はあったのだろうが、今は生け贄が供物に変わっている。

 昔ほど信仰心もなくなり、直接懐を潤してくれる供物のほうが、ありがたみがあるということだろう。
 神への供物ではなく、あくまで神官への供物に成り下がっているのだ。
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