饅頭(マントウ)~竜神の贄~
第六章
「虎邪(フーシェ)~。今日も出かけるのかよ」

 朝になるなり、虎邪はさっさと着替えて部屋から出ようとする。

「飯ぐらい食べようや。もうちょっと待てば、朝餉が運ばれてくるだろ?」

 用意をしながら、緑柱(リュイジュ)がぼやく。

「やけに熱心だな。全然乗り気じゃなかったくせに。何か気になることでもあんのかい?」

「供物の八割の行方だ。生け贄ってのも気になるな。あのじぃさんは純粋に神を信じてるんだろうが、裏で糸を引いてる奴がいるはずだ」

 行くぞ、と扉に手をかけた虎邪だったが、扉を開けた途端、動きが止まってしまう。
 ちょうど朝餉の盆を掲げた侍女を連れた神明(シェンミン)姫と出くわしたのだ。

「まぁ。もうお出かけですか」

 驚いたような顔で言った神明姫だったが、すぐに赤くなって目を逸らす。
 昨日のことを思い出したようだ。
 侍女が、ずいっと前に進み出た。

「お急ぎなのでしょうか。朝餉は召し上がったほうが、よろしゅうございますよ」

 じろ、というように見据えられ、虎邪は珍しく後ずさった。
 若いのに、やけに迫力のある侍女だ。
 何となく気圧され、虎邪は寝台に腰掛けた。
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