饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「方向もわからんうちに、投げつけるんじゃねぇ! 方向音痴なんだから!」

「相手に当たらんでも、虎邪にさえ当たらなけりゃ良いかと思ってさ。でも狙ったように虎邪のほうに行ったねぇ。日頃の行いかなぁ」

 全く悪びれる風もなく、緑柱はしみじみと言う。
 姫は複雑な思いで、そんな緑柱を見た。

---こ、こんな人が、ほんとにあのかたなの・・・・・・?---

 どう考えても、このぼんやりした緑柱に惹かれるところはない。
 腕っぷしはそれなりのようだが、戦闘中でもこのようにぼんやりしていては、何となくとんでもなくくだらないことで、危険に晒されそうだ。

---自分の趣味に、自信が持てなくなってきたわ・・・・・・---

 神明姫は、密かに頭を抱えた。

---でも・・・・・・ぼんやりしているからこそ、ぼんやりしたまま私を斬ってしまいかねないわ---

 そう考えると、ぞっとする。
 そんな恋人は嫌だ。

 と、ここまで考えて、少し赤くなる。

---なな、何考えてるのかしら。確かに夢の中のあのかたを、夢の中の私は、とってもお慕いしていたみたいだけど、でもでもっあのかたは、わからないわ。会えて嬉しく思っていたのは、私だけかもしれないし---

 確かに夢の中で、神明姫は嬉しそうに『あのかた』のところに走っていったが、如何せん『あのかた』の顔が見えないのだ。
 彼も嬉しそうな表情だったのかがわからないので、彼の気持ちもわからない。
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