饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「へぇ? そんな妙なところがあるのですか。ふ~む、確かにいきなり、凄い森が現れてますね。でも、そう大きな森でもなさそうですけど」

 言いながら虎邪は、そのまま森に近づいていく。
 神明姫は、少し足を速めて、虎邪に近づいた。

「見たとこ、そんな大層な森でもないけど・・・・・・怖いですか?」

 すぐ横に寄り添う神明姫の肩に、虎邪は腕を回した。
 あまりにべたべたしたら怒っていた姫だが、今は大人しく虎邪に引っ付いている。
 おや、と意外に思い、虎邪は再び森を見上げた。

 目の前に広がる森は、確かに今までの風景とは、がらりと変わった空気を醸し出している。
 森の中は見えている部分からも、すでに薄暗く、まるで一歩足を踏み入れただけで、出られなくなりそうだ。

「まるで森の中だけが、違う空間のようですね。でも、祭事はここですることもあるってことですか?」

「え、ええ・・・・・・。あの、それこそ特殊な・・・・・・どちらかというと、秘密裏に行う儀式をあそこで・・・・・・」

 歯切れ悪く言う神明姫に、虎邪は、ふむ、と頷いた。
 どうやら長の娘だけに、普通の者なら知らない情報も知っているようだ。
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