饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「あまりにお疲れのようなら、抱いて行ってあげますが」

 折角スマートにエスコートしたにも関わらず、余計な一言のお陰で、姫は赤くなって、つん、とそっぽを向いた。
 そのまま虎邪を追い越して行こうとする神明姫の腕を取り、虎邪は笑いながら、軽く手を繋いだ。

 手を引きながら、少し前を歩く虎邪を、神明姫は、ちらちらと眺めた。
 その合間に、反対側の少し後ろを歩く緑柱も窺う。

---何だか夢に捕らわれて、初めて会った人を、勝手に夢のかたに当てはめてしまっているのかも。そうね、夢は夢だもの。正夢とも限らないしね---

 そうは思うものの、神明姫はどうしても、虎邪の剣が気になってしまう。

---何で私は、こんなに剣を恐れるのかしら。これは、夢の影響?---

 どうも夢に振り回されている。
 軽く頭を振り、神明姫は、前に顔を戻した。

「あ、虎邪様。あそこは避けた方がいいです。魔の森で、よっぽどの祭事のときしか、誰も入らないのです。薄暗くて、不気味ですし」

 不意に神明姫が、繋がれた手を引いて言った。
 言われて前方を見ると、確かにこのまま川沿いに行けば、鬱蒼とした森に入ってしまう。
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