饅頭(マントウ)~竜神の贄~
「あ、明日はちょうど満月です。月がちょうど真上に昇ると、あの森の祭壇前の川溜まりに、月が落ちたように映り込むのです。竜神の力が、最大になる刻なのですよ」

「明日・・・・・・ということは、明日の夜、ということですね? 今晩ではないですね?」

 虎邪は机の向こうから、老神官の胸倉を掴む勢いで確かめた。

「ええ。ですから、厳密には明後日の明朝ということになりましょうか」

 それを聞くなり、虎邪は椅子を蹴倒す勢いで扉に向かった。
 緑柱が慌てて後を追う。



「虎邪。生け贄が、お姫さんだったの?」

 神官の家を出、ずんずん歩く虎邪を追いながら、緑柱が声をかける。
 ぼんやりしているわりに、一連のやり取りから状況を把握したらしい。

 水占いで選ばれた串には、神明姫がしていた腕輪と同じ紋章が入っていた。
 今まで行われていた、供物を捧げるだけの儀式はともかく、今回の儀式は、おそらく本物だ。

 虎邪だって、れっきとした神官である。
 加えて、自分で言ったように、神官としての力は、そこいらの平神官とは比べものにならない。
< 77 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop