饅頭(マントウ)~竜神の贄~
 虎邪は神というものの『存在』は、あまり信じていないが、『気』は感じる。
 大地の『気』や神木と言われる大樹の持つ『気』・・・・・・。
 自然が発するオーラを感じることができるのだ。

 確かな力を持った虎邪が行った水占いの結果は、確かにちゃんとした神の意思、といえる。
 串も、持ったときから微妙な気を感じた。
 れっきとした呪具だ。

 老神官の結果も虎邪の結果も一緒だったのは、偶然ではないだろう。
 竜神が---虎邪から言わせれば、『水の気』が---神明姫を欲したのだ。

「そんなこと・・・・・・させるかっ」

 とは言うものの、相手は神である。
 水の気が怒り狂えば、それこそ竜となって、この町全てを水没させかねない。
 確かにあの川からは、それほど強い水気を感じた。

「荒ぶる水神を抑えるには、ヒトの生け贄が一番簡単だもんねぇ。さすがの虎邪も、水神を抑えるだけの力はないし」

「水神を抑えるなんて、ヒトには無理だ。それこそ命を差し出さないと」

 だからこそ、古来より船乗りの間では、海が荒れたときのために、持蓑(じさい)という生け贄用の人間を船に乗せていた。

「でも、そんな応急処置な生け贄で良いなんて、ここの水神は、せっかちなんだねぇ」

 のほほんと言う緑柱に、虎邪は、ぴた、と足を止めた。

「そうか、そうだな。潔斎の期間もいらないなんて。・・・・・・・調べてみよう」

 言うが早いか、虎邪は神殿の石段を駆け上がった。
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