地下世界の謀略




身体を走る痛々しい傷痕は、彼を害した。

思い返すだけで背筋が凍るあの日々は確かに、彼を未だ苦しめる。
ーーー傷の下、埋め込まれた"技術"はいつでも「出てくる」機会を伺っているのだ。


「……、」


話を聞いている間も、手の平の汗は止まる事はなく、どんな表情をしてアルトの顔を見れば良いか分からない。



「…彼奴らが造っていたのは、"人ならざる人"」


見た目は人であり、しかしそれを超越した力を持つ者。



「どういうこと…?」

「…話してもいいけど、ショック、受けんなよ。頼むから」


目を細めてソファーに寄りかかったアルトは、珍しく私に気を遣いながら、この世界の歪みを話し出す。





ーーー地上世界において、数百年の実験の末に誕生した「神の細胞」と呼ばれる新人細胞。
その細胞を埋め込まれた第一被験者は、研究者が驚く程驚異的な回復能力、IQレベル、身体能力を見せ、周りを圧倒する。

そこで権力者は考えたのだ。


『この細胞を使い世界を統べる事ができないか』と。


恐ろしいその計画はその後、幾度に渡って行われた。しかし生身の人間がその細胞を身体に定着させる事は至極困難な事で、ある者は拒絶反応を起こし、気を狂わせて死んでいき、ある者は定着したものの自我を失くし破壊者と成り果てた。



「荊は、たまたま俺を被験者に選んで、たまたまその細胞はこの身体に適応した」


お陰でこの中身に這いずり回る一つの人格がいつも俺を喰らおうとする。痛みは全て、ここからきていた。
出てこようとするのだ、傷の下から侵食するように。己の体を取り込むために。


「……」

「気ィ抜いたらいつでも持っていかれる。
…細胞は人格を変えるから、きっと俺は俺で無くなるんだろうな」

「アルトが、アルトじゃなくなるの…?」

「多分。…でも、俺はこの化け物の覚醒に負けたくはないわけ」


だからこそ荊から逃げながらも、探している。
この身体を弄った研究者を。
"発作を止める薬"を持つあの男どもを。



< 104 / 111 >

この作品をシェア

pagetop